とにかく好き!って言いたい星人

〜これが好き!ここがすごい!あれも素敵!と、とにかく言いたい星人の私〜

思い出に期限はない

魔女の宅急便」で知られる児童文学作家の角野栄子さん。

 

NHKで「カラフルな魔女」という番組名で

そんな角野さんがお散歩したりご飯を食べたり

今の考えやお仕事への想いを語る番組がやっていたので

角野さんがどんな方なのか、どんな温度感でお話される方なのか知りたくて、

録画して見てみた。

 

www.nhk.jp

 

 

 

 

 

その番組の中で、角野さんが

 

「思い出は生きる力」

 

っとニコニコしながらおっしゃっていた。

 

そのシンプルだけど強大なことばに、涙がぼろぼろ出た。

 

 

「思い出は私たちよりも先回りして未来で待っていてくれる。

 

過去あったことはそこで終わり、じゃなくて

 

あなた、こんなことがあったよねって

 

思い出した時、心を動かしてくれる」

 

 

とおっしゃっていた。

 

本当にそうだなぁと思った。

つい最近私も、車の運転中に過去の大切な思い出がふと蘇って

涙が溢れて止まらなかった経験をしたところだったからなのです。

 

 

♦︎

 

 

私が今の職場の前の職場に勤めている時。

パートさんとして働く、大好きなSさんという方がいた。

2人の可愛い娘ちゃんを抱えながら、一生懸命働くその姿が素敵すぎて

羨望の眼差しでいつも見てお手本のようにしていた方だった。

 

私が入社した時、人見知りで自分から話しにいけない私に

一番最初に話しかけてきてくださったのが、このSさんだった。

 

普段も可愛らしい方だけれど、

お仕事もバリバリこなされて、本当に憧れの存在だった。

 

勤め始めて一年も経たない頃、Sさんが3人目のお子さんを授かった。

 

じきに産休に入られて、いつもいるSさんが職場からいなくなってしまった時

Sさんが今休まれているのは素敵なことがこれから控えているからで

祝福するべきことなのに

 

やっぱり彼女がいないことが私にとっては砦を失ったような喪失感と寂しさで

結構キツかったし辛かった。

だけどそんなこと誰にも言えないし

なんとかそんな自分を見ないフリして堪えて仕事をしていた。

 

 

ある日、Sさんから連絡がきた。

 

10分でもいいから、お昼休憩の時間少し会えないかな?」

 

1時間もらえるお昼休憩の時間、

職場と自宅が近い私はいつも必ず家に帰っていた。

 

超特急でお昼を食べたら340分は寝転んで仮眠を取らないと

午後の業務がこなせなかった。

 

精神的にも体力的にも、その時の仕事内容は私にはかなりハードだった。

 

私はSさんからのメールに二つ返事で「私も会いたいです」とお返事した。

私の家に、直接来てくれることになった。

 

 

Sさんと約束した当日の午前中の業務中、

いつも温厚な上司に、珍しく強い発言を個人的に言い放たれて

私の心は見事ぺしゃんこになった。

 

ただでさえいっぱいいっぱいな状態だったところに

王手をくらい、目の前が真っ暗になった。

 

逃げるように、お昼休憩の時間になった途端、自宅に帰った。

 

いつも通り、そそくさと適当にお昼ご飯を食べた。

あんなに食べることが好きだったのに

ただお腹を満たすための業務的な咀嚼行為をしている自分に

無機質さを感じて、

でもそんな状況を振り返ることも解決する気力も体力も

その当時の私にはなかった。

 

今思えば、その時既に綱渡り状態に等しかったのだと思う。

 

 

するとやがてSさんがやってきてくれた。

 

まんまるい可愛いお腹のSさんがにこにこしながら

 

「久しぶり」

 

玄関先に立っているのを見たら

咳切ったように堪えていた涙のダムが決壊した。

 

つい先程上司に言われたことを嗚咽混じりにSさんに話した。

 

「あらぁ、そんなこと言われたの?びっくりしたねぇ」

 

私のことも上司のことも責めることをしないSさんの優しい言葉がすごく心地良くて

更に泣けてしまった。

 

 

わんわん泣いていたら、

あっという間に会社に戻らなくてはいけない時間になってしまって

本当にたった数十分のためにSさんにここまで来させてしまって

しかも私はこんな悲惨な状態になってしまって

せめて笑顔で向かい合いたかった、と自分を責める気持ちでいっぱいになってしまった時

 

Sさんは天使みたいに両手を広げて

そして私をぎゅうっと抱きしめてくれた。

 

「はい、午後も頑張って、いってらっしゃい」

 

その時の、私のお腹に当たるSさんのずんぐりと丸いあたたかなお腹の感触も

柔らかくていい匂いのする腕の中の感触も

 

どちらも覚えている。

今でも忘れられない。

 

 

私はこの時、二つの命に抱きしめてもらえていたんだ

 

 

 

 

 

 

Sさんのおかげでその後の午後の仕事も無事に乗り切ることができた。

 

親にも、あんな風に抱きしめてもらったことないのに。

 

本当に愛の人だ、と思った。

 

私にとってこの日の出来事がいつまで経っても色褪せることはなくて

 

きっと永遠に私の中で大切な思い出の一つ。

 

絶対に絶対に、忘れない大切な宝物の一つ。

 

 

 

この出来事があったのが約7年前。

 

それがふと、この間運転中にぽろんと脳内に落ちて思い出して

 

「あれは本当に、嬉しかったなぁ

 

と無意識の内に呟いたら、何故だか分からないけれど

涙が急に溢れて止まらなくなった。

 

嗚咽になるくらい泣けて泣けてしょうがなかった。

 

そして分かったのが

 

あの時のSさんが今また私を抱きしめてくれたんだ、ということだった。

 

もうとっくに過去の出来事の思い出だけれど、

あの時のお昼のあたたかい空の下でSさんが柔らかく私を慰めてくれた

あの日と同じようにたった今

私はまたSさんにぎゅうっと抱きしめてもらえたんだ、と感じた。

 

その時に、

 

 

「あ、思い出というのは過去で終わりになったりするんじゃなくて

思い出すことで何度でもその時のことを体験できるし

その時味わった感覚や感情を味わえるんだ。

そして救われるんだ。

 

思い出に期限なんていうものはないんだ」

 

 

と思った。

 

そう理解した時の感動たるや。凄まじかった。

 

分からないけれど、きっと少し息詰まって苦しかった私に

違うもう1人の私が引き出しの中からこの思い出をピックアップして

私に渡してくれたのかな、と思った。

 

それくらい、ぽろり、と自然にSさんとの思い出が目の前に転がりこんできたので

答え合わせなんてできないけれど、本当にそんな気がした。

 

 

つい最近、そんな素敵な体験をしたので

冒頭の角野さんの優しい語り口調から

その出来事を思い出して、本当にそうなんだよなぁと思ったら泣けてしまった。

 

だから、やっぱり体験とか経験って本当に価値あるもので

一生モノなんだなと思った。

 

そしてとてつもなくSさんに改めてありがとうが伝えたくなって会いたくなって

恋しくなってしまった。

 

この状況下なので会うのを控えていたけれど

やっぱりあの柔らかくてあたたかい愛のあるSさんに

会いたくてしょうがなくなってしまった。

 

その時勤めていた職場はその後体調を本格的に崩して働ける状態でなくなってしまったので

退職することにしたけれど

Sさんと出会わせてくれた機会をくれた大切な場所なので

本当に今でも感謝している。

 

私はこういう経験をさせてもらうために

その場に導かれたのかな?とも思った。

 

分からないけれど、そう思えていると幸せなので、私は勝手にそんな風に思っています。